1LDK叙事詩

続ける事を目標としているので、内容については一貫性がありません。

その指で。

治さんの家を通りかかったら玄関先でエンコを詰めていて、その懐かしい光景に思わず声をかけてしまった。

 

「なんかやったんですか?ヤクルト1000の転売とか。」

「およとくん、今年からね。暴対法がね。」

そう言って左手の薬指の第二関節を切り落とした治さん。流石に慣れている。

その手際の良さに見惚れてしまった。慣れたくは、ないが。

「暴対法が、どうかしたんですか。」暴対法について全く知識が無いのでオウム返しをするしか無い。

「改正されてね。指が、メルカリで売れるようになったんだよ!僕もねTwitterで知ったんだけど…」満面の笑みの治さん。こんなに嬉しそうな治さんは珍しい。

それと、前歯が全て金歯なので、眩しい。

3人目の妻を亡くして生気が無くなっていた治さんがこんなに楽しそうに指を切り落としているのを見ると僕も嬉しい。

(これは余談なんだけど、2人目の女性は僕らが昔『ハンバーガーおばさん』と呼んでいたあの人だ)

「治さんもSNSとかやるんですね。意外だ。」硬派な人だと勝手に思っていたので、ちょっと嫌な気持ち。

「ほら。赤福とか好きだから。セール情報載ってるのよ。見切り品の赤福をね。いつも買いに行くから。」

赤福好きですもんね。」

 

 

 

メルカリでヤクザの指の出品リストを見る。

組長レベルの指だと組の規模にもよるが、7万円〜になっていて、なるほど確かに売れるが、これは嬉々として売れる金額なのだろうか…?と心配になった。

ホルマリン漬けの小指がやはり一番人気らしいが、中には指のセット売り(と指の持ち主の写真付)などもあり、中々盛況なようだ。

 

【およと様専用】と書かれたページを眺めて画面を消した。指だけじゃ足りないな。

 

 

車を沈めた後、ヤクルト1000を飲みながら治さんに会ったらジャンケンを挑もうと、ふと考えた。

こちらには必勝法が、ある。